二都物語(ディケンズ)|作品を読み解く3つのポイント

二都物語 イギリス文学

TITLE : A Tale of Two Cities
AUTHOR : Charles Dickens
YEAR : 1859

GENRE : History, Romance

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画像提供:pixabay

知っていただきたいのです。あなたはこの魂がすがりつく最後の夢でした。(中略)すべて夢です。結局実現することない夢です。寝ている男は寝たままですが、そんな夢を見ることができたのも、あなたがいればこそということを知ってもらいたかったのです

P266(『二都物語』チャールズ・ディケンズ著、加賀山卓朗訳、新潮社、2014年)

テーマ:破壊と再生

【ここに注目!3つのポイント】
1、双子と瓜二つの男
2、キリストと復活
3、「23」の謎

【1】双子と瓜二つの男

本作『二都物語』の最大の魅力は、
驚異の伏線回収力であるといえます。

これだけのものを
いろいろとばらまいておいて、
これほどまでに
きれいさっぱり片づけてしまうとは、

文豪ディケンズの見事な筆力には
思わず舌を巻いてしまいます。

ここで特筆すべきは、
登場人物を「再現」させるという手法です。

この物語には、パリとロンドンという
二つの都市を中心に、貴族から庶民まで、
さまざまな人々が登場しています。

キャラクターとしては独立していても、
それぞれに与えられた役割というのは、
決してその場限りのものではありません。

登場人物たちは、それぞれが本人であり、
かつ、お互いの代理人でもあるのです。

同僚の外見が自堕落とは言わないまでも無頓着でだらしないことを除けば、たしかにふたりはよく似ていて、訊かれた証人のみならず、その場にいる全員が眼をみはるほどだった。

P132(『二都物語』チャールズ・ディケンズ著、加賀山卓朗訳、新潮社、2014年)

多様なキャラクターのなかでも
特に重要な「再現」を担っているのが、
主要人物として登場する
ダーネイとカートンです。

彼らが再現するものの一つには、
まず、ダーネイの父親と叔父にあたる
エヴレモンド侯爵兄弟が挙げられます。

この侯爵兄弟が「双子」であること。

そして、ダーネイとカートンの
外見がそっくりだということ。

これは決して、
偶然の一致などではありません。

物語のなかでは、父親と叔父の犯した
極悪非道が暴露されることで、
その息子であり甥でもあるダーネイの
「身代わり」としての処刑が確定します。

そして、そんなダーネイを救出するために
命を捧げたカートンには、
さらなる「身代わり」としての役目が
与えられています。

このようなダーネイとカートンによる
侯爵兄弟の「再現」には、
罪の清算の意味が込められていると
指摘することができます。

ダーネイとカートンの出現によって、
侯爵兄弟が隠蔽した罪を
白日の下にさらすとともに、

この二人が、自らに濡れ衣を着せることで、
侯爵兄弟が犯した罪を
代わりにあがなったというわけです。

【2】キリストと復活

もう二度と見ることのないイギリスで、おれの命を捧げた人々が、平和で、有意義で、幸せで、豊かな生活を送っているのが見える。子供を胸に抱いた彼女が見える。その子にはおれの名前がついている。

P658(『二都物語』チャールズ・ディケンズ著、加賀山卓朗訳、新潮社、2014年)

さらに深掘りしていくと、
この二人の関係から見えてくる
もう一つの「再現」があります。

それが、キリストと復活の象徴です。

身代わりとして処刑台に立つカートンと、
その場面のあとに続く
「ヨハネの黙示録」を彷彿させる予言は、

キリストの磔刑と、その再臨
意識して書かれていることがわかります。

先ほども述べたとおり、
ダーネイとカートンが被る災難には、

侯爵兄弟に代表される
支配者層の残酷な搾取と、

その反動によって横行した
庶民の暴挙に対する、

「贖罪」の意味が込められているのです。

このように、それぞれの登場人物を
「再現」という視点で結び合わせていくと、
キリストの受難の物語が
徐々に浮かび上がってきます。

ここで、さらに踏み込んだ話をすると、
キリストにまつわる有名な伝説の一つに、

イエス・キリストには兄弟がいて、
その兄弟が、イエスの身代わりとなって
処刑されたのではないか?

というものがあります。

「双子の兄弟」と「身代わり」

この点について、作者の意図というのは
よくわかりませんが、

この小説のなかに、
聖書に関する意味深長なメッセージが
秘められているということは、
どうやら間違いなさそうです。

【3】「23」の謎

一瞬前まで考えも話もした首には、ろくに眼も上げずに編み物をしていた女たちが、「一」と数える。
 二台目の護送馬車が空になり、去っていく。三台目が到着する。ダン!片時も編み物の手を休めることのない女たちが、「二」と数える。

P653-654(『二都物語』チャールズ・ディケンズ著、加賀山卓朗訳、新潮社、2014年)

最後に、私パイヌが、
いまだに解読できずにモヤモヤしている箇所
というのがあるので、
それを指摘しておきたいと思います。

上の引用部は、
処刑を見物している女たちの様子を
描写しているのですが、

「一」「二」という数え方が、
どう見ても不可解なのです。

一見すると、
落とされた首の数を数えているようで、
実はそうではないことが
おわかりいただけるかと思います。

このカウントはカートンの順番まで
続いているらしく、
彼に対しては、「二十三」という数字が、
女たちから宣告されます。

彼女たちは、
いったいなにを数えていたのでしょうか。

そして、カートンにはなぜ「23」という
数字が割り当てられたのでしょうか。

何度読み返してみても、
いっこうに謎が解けません。