【おすすめ本・海外文学】はじめてのイギリス文学―おすすめ5選

はじめてのイギリス文学 YouTube

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おすすめの本をご紹介しています。

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まず1冊目は、メアリー・シェリーの
『フランケンシュタイン』
です。

「フランケンシュタイン」と聞くと、
ハロウィンの仮装によくあるような

頭にデカいボルトが突き刺さった
緑色の大男をイメージする人も多いかと
思いますが、

本当の「フランケンシュタイン」は
モンスターではなくて、
そのモンスターを創った
青年の名前なんですね。

この小説が、映画化された際に考案された
モンスターのヴィジュアルが
あまりにも斬新だったせいか、

その印象が独り歩きして、いつの間にか、
「フランケンシュタイン=モンスター」
という思い込みが
定着してしまったようです。

とはいえ、主人公のフランケンシュタインが
モンスターのような思考
持ち主であることを考慮すれば、

「フランケンシュタイン」を
モンスターの名前だと勘違いしたとしても、
それは、あながち間違いではないと
いえるのかもしれません。

この青年は、ただ者ではなくてですね、
大学で2年間勉強したあとに、たった一人で
人造人間の研究に着手して、

わずか2年という短い期間で
それを完成させてしまうんです。

「人間の創造」という前人未到の
大偉業を成し遂げたことで、

あれよあれよという間に
「創造主=神」の地位へと登りつめた
フランケンシュタインでしたが、

彼の転落は、自分の足元に横たわる物体に
生命を吹き込んだ、
まさにその瞬間に訪れます。

フランケンシュタインの悲劇は、
言い換えれば、

「自らの手で創り出したものによって、
我が身を滅ぼす」


という結果を招いた人間の悲劇でもあって、

このような知識や技術の
開発にまつわる功罪は、それこそ、

聖書の『創世記』に登場する
アダムとイヴの楽園追放から、

現代における、人工知能の
「シンギュラリティ」にいたるまで、

実にさまざまな形をとって立ち現れる
人類の永遠のテーマでもあります。

ちなみに本作は、「SFの元祖」とも称される
記念すべき作品で、

『フランケンシュタイン』の影響を
受けていないSFは存在しない、といっても、
決して過言ではないと思います。

ロボットの逆襲とか、
テクノロジーの暴走とか、
人類の滅亡とか、
科学者の野心とか、

SFでもおなじみのモチーフが
この『フランケンシュタイン』のなかに、
すでに現れているんですね。

200年以上も前に発表された
作品にはなりますが、

時代を経るごとに、
ますます新しくなっていくような
そんな不思議な印象を与える
とてもおもしろい作品です。

つづいて2冊目は、
アーサー・コナン・ドイルの
『シャーロック・ホームズの冒険』
です。

推理小説の元祖は、
エドガー・アラン・ポーの
『モルグ街の殺人』だと言われていますが、

この『モルグ街の殺人』に登場した
探偵デュパンの手法を
より鮮やかに色付けしていったのが、

アーサー・コナン・ドイルの
「シャーロック・ホームズ」なんですね。

鹿撃ち帽と、インヴァネス・コートと、
タバコのパイプと、
虫眼鏡がトレードマークの
名探偵シャーロック・ホームズですが、

その愛好家が「シャーロキアン」と
呼ばれているように、
現在でも世界中に熱狂的なファンが
いることでも知られています。

シャーロック・ホームズの魅力は、
なんといってもやはり、

徹底的な「観察」
洗練された「推理」から導き出される
ホームズのアッと驚くような見解です。

依頼人の服装やしぐさ、
トラブルの経緯、
関係者の置かれた立場、
当時の現場の状況など、

あらゆる手がかりをもとに、
不可解な事件の真相に迫ります。

スコットランドヤード(ロンドン警視庁)の
レストレード警部は、
「理屈にこだわりすぎる」といって、
ホームズの手法を揶揄していますが、

ホームズはホームズで、
現場に足を運ぶのはもちろんのこと、

資料や記録を何時間も続けて読み漁ったり、
まったくの別人に変装して
潜入調査を試みたりと、

警察とは別の路線で、
精力的に活動している様子というのが
描かれています。

それからもう一つ、
シャーロック・ホームズの人気ぶりに
一役買っている存在として
忘れてはならないのが、

ホームズの相棒であるワトソン博士です。

このワトソン博士が、
私たち読者と同じ視点に立って、

一見すると難解にも思える
ホームズの名推理を
わかりやすく伝えてくれているので、

彼らと一緒に謎解きをするような気分で、
物語を楽しむことができると思います。

シャーロック・ホームズが登場する作品は、
シリーズものになっているんですけど、
どれもまだ読んだことがないという人には、

『シャーロック・ホームズの冒険』から
読みはじめることをおすすめします。

理由は単純で、
この短編集よりも前に発表された
『緋色の研究』や『四つの署名』といった
長編小説にくらべて、

こちらの方が圧倒的に読みやすく、
おもしろいからで、
ホームズの入門書としても
まさにぴったりの作品だと思います。

ちなみに、
今回紹介した光文社文庫のものには、

シャーロック・ホームズの短編が
雑誌に掲載されていた当時のものと
同じ挿絵も収録されているので、

物語の世界をよりリアルに楽しみたい
という人は、こちらも必見です。

つづいて3冊目は、
ジェローム・K・ジェロームの
『ボートの三人男』
です。

堅苦しい話はちょっと苦手かも、
という人には、
この作品を強くおすすめしたいと思います。

ブラック・ジョークの本場イギリス
皮肉たっぷりのユーモアを
これでもか!というほど堪能することできる
贅沢な一品となっています。

お品書きは、「膝蓋粘液腫の話」から
「テムズの誇り」まで、多岐にわたります。

なにしろ、ストーリーの約90%が
ジョークで埋め尽くされているので、
すべてを紹介することは
到底できないんですけど、

せっかくなので、
私のお気に入りのエピソードを
いくつかピックアップしてみますと、

晴雨計を叩いたら、
天変地異が警告された話とか、

コミックソングの笑いどころを
知ったかぶりして、
ドイツ人を怒らせてしまった話とか、

友達と間違えられて、
危うく海で溺れかけた話とか、

貸しボート屋の「テムズの誇り」の話とか、
ですね。

ただ、私がここで長々と説明しても、
おもしろさはちっとも伝わらないと思うので
ぜひとも、ジェローム・K・ジェロームの
見事な話術を通して、

ブリティッシュ・ユーモアの傑作
楽しんでもらえたらと思います。

先ほど、本作のストーリーの約90%は
ジョークで埋め尽くされていると
お話ししましたが、

では、残りの10%には、
なにが入っているのかといいますと、

これまた意外や意外、なんと、
テムズ川沿岸の観光名所を案内する
本格的なガイドブックが
入っているんですね。

ブリトン人とか、ローマ人とか、
サクソン人とか、デーン人といった、
古代の部族の英雄から、

イングランドの歴代の王や貴族にいたるまで
さまざまな歴史上の人物たちが
ここを訪れたという言い伝えが残る場所を
冗談抜きで、真面目に説明してくれます。

これに加えて、テムズ川沿岸の
風光明媚な景色の数々を
詩のように歌い上げながら
そのすばらしさを読者に伝えてくれるので、

目の前に風景がありありと
浮かび上がってくるんですよね。

おもしろいおじさんが、
テムズ川沿岸を観光ガイドしてくれる

と聞いて、

ちょっとでも興味をそそられた人がいれば、
この本をぜひ一度手に取ってもらえたらと
思います。

つづいて4冊目は、オスカー・ワイルドの
『ドリアン・グレイの肖像』
です。

「世紀末文学」の立役者としてもおなじみの
オスカー・ワイルドですが、

その代表作としては、
本作『ドリアン・グレイの肖像』のほかにも

戯曲の『サロメ』や、
童話の『幸福の王子』といった作品が
よく知られていると思います。

おそらく多くの人が
戯曲の『サロメ』を通じて、

オスカー・ワイルドという作家を
知ったのではないかと、
勝手に想像しているんですが、

というか、私自身も、
そのなかの一人なんですけど、

ただ、この3つの作品を
すべて読んでみて思ったのが、

『サロメ』よりも、
それから『幸福の王子』よりも、

オスカー・ワイルドの世界観を
もっともわかりやすく描いているのは、
今回紹介する『ドリアン・グレイの肖像』
なのではないかということです。

本作は、オスカー・ワイルドの
唯一の長編小説と言われているんですけど、

ストーリーのおもしろさはもちろんのこと、
作者の思想が丁寧に説明されている
という点でも、
非常に読みやすい作品となっています。

この物語には、主人公のドリアン・グレイと
画家のバジルと、それから、
ヘンリー卿という3人の男が、

メイン・キャラクターとして
登場するんですけど、

この3人の男がそれぞれに、
作者オスカー・ワイルドの
複雑な人物像を反映していて、
実に興味深いんですよね。

特に、彼らの人間関係と、
親密過ぎたがゆえに
悲惨な最期を迎えるという展開が、

スキャンダルによって破滅へ追いやられた
作者自身の生涯と重なる
という意味においても、

本作は、オスカー・ワイルドをひも解く、
重要なキーとなる作品であるといえます。

『ドリアン・グレイの肖像』の一番の見所は
なんといってもやはり、
このストーリーの真の黒幕ともいえる
「肖像画」の不気味な変貌ぶりです。

この不思議な肖像画は、
そのモデルとなった青年ドリアン・グレイに
自身の類まれなる美貌を自覚させると同時に

今のような輝くばかりの若さを
失うことへの恐怖を
かき立てることになります。

ちなみに、若さと美を失ったら、
他人は見向きもしなくなるだろう
という
おぞましい価値観を青年に吹きこんだのは、

ヘンリー卿という人物で、この男は、
ドリアン・グレイの破滅を招いた
張本人でもあります。

ただ、彼の主張というのは、
「デカダンス」とか、「耽美主義」とか、
いわゆる「美しさこそが正義である」とする
思想をストレートに表現していて、

それ自体、なかなか興味深いものでは
あるんですけど、

それと同時に、彼の皮肉と逆説に満ちた
言葉というのは、

当時の「抑圧された俗悪な時代」に対する
大胆な挑戦状として解釈することもできて、
これはこれで、結構おもしろいんですよね。

これで最後になります。

5冊目は、ルイス・キャロルの
『不思議の国のアリス』
です。

『不思議の国のアリス』については、
ディズニー・アニメや絵本などを通じて
ご存じの方も多いと思います。

本作は、「ナンセンス文学」とも
称される作品で、

子どもたちが思わず顔を
ほころばせてしまうような
ダジャレやジョークが
ふんだんに盛り込まれていて、

まあ、くだらないといえば、
くだらないんですけど、

そのなかには、
シュールな笑いと呼べるものも
たくさん含まれているので、
大人が読んでも十分に楽しめると思います。

このような「言葉遊び」の
おもしろさ以外にも、
物語に登場する斬新なキャラクター
というのもまた見所で、

天真爛漫な主人公のアリスをはじめとして、

あわてんぼうの白ウサギとか、
にんまり顔のチェシャーネコとか、
クレイジーな帽子屋とか、
あと、冷酷なハートの女王とか、

そういった、個性豊かな登場人物たちが
この摩訶不思議な冒険を
盛り上げていきます。

『不思議の国のアリス』は一見すると、
児童文学の名作の一つにすぎないようにも
思われますが、

その影響力の大きさは抜群で、
右に出る者がいないどころか、

この作品だけが、
なぜか特別扱いされているような、
そんな気がしてならないんですよね。

その証拠に、
『不思議の国のアリス』の影響というのは、
文学の域にとどまらず、

さまざまな分野の創作活動にまで及んでいて
これまでにも
数々のオマージュやパロディ
生み出してきました。

日本では、ジブリの『となりのトトロ』
『千と千尋の神隠し』といった作品に
『アリス』のオマージュと呼べるものが
組み込まれていて、

たとえば、『となりのトトロ』の場合、

『不思議の国のアリス』の舞台を
日本に置き換えたもの
『となりのトトロ』であると
いってもいいくらい、

たくさんの共通点を見つけることが
できます。

これは、『千と千尋の神隠し』にも
同じことが言えて、

一番わかりやすいのは、
主人公の千尋が働くことになる
湯屋の経営者の「湯婆婆」と

『不思議の国のアリス』に登場する
「公爵夫人」がそっくりなところ、
ですかね。

ここにある、角川文庫のものにも
収録されている
テニエルの挿絵を見てもらえれば、

この両者が、どれほどよく似ているかが、
すぐにわかると思います。

このように、『不思議の国のアリス』の
影響力というものを語り出すと、
その実例を挙げるだけでも
すごく長い話になってしまうので、

もし興味を持った人がいれば、まずは、
ルイス・キャロルのオリジナルの物語を
読んでもらって、

『不思議の国のアリス』の世界を
知るところから
はじめてもらえたらと思います。